インドのバスには、謎の休憩時間がある。
以前、インドを旅した時にも、謎の休憩を体験した。

旅先から帰ってくるバスでの出来事だった。
僕が乗ったのは、夜行バス。
旅先を、夜10時過ぎに出発し、朝6時頃に、僕が今住んでいるバンガロールに帰ってくるバスだ。

バスが出発して30分くらいで、その謎の休憩時間は始まった。
そこは、なんの変哲もない国道だった。
街灯もあまりないような、薄暗い国道に、バスはいきなり停車したのだ。

運転手からは、なんの案内もない。
乗客も、誰一人立ったり、騒いだりする人はいない。

『一体何の休憩なんだろう、、?
まさか、、?!』

僕は不安になり、持ち前のよけいな想像力が働き始めた。

『もしかして、ここでバスジャック犯と待ち合わせしてるんじゃ、、?』

僕は、最後部席に座っていたので、よくは見えなかったが、どうも運転手がバスを降りて行ったようにみえた。

『ひょっとしたら彼は、仲間を呼びに行ったんじゃないだろうか、、?
この後、いきなりガスマスクをつけた奴らが乗り込んで来て、睡眠ガスをまき散らす。

気づいた時には、どこかの教室に連れて来られていて、
「今から君たちに、殺し合いをしてもらいます♪」
みたいなこと言われるんじゃ、、??』

周りの乗客を見たら、ほとんどの人が既に眠っていた。

『いやいやあんたら、寝てる場合じゃないって、、!
これからバトルロワイアルが始まるかもしれないんだぞ?!』

僕は息をひそめて、一つでも多くの情報を得ようと、周囲の状況に意識を集中した。
すると、15分程して、運転手が帰って来た。

そして、何ごともなかったかのように、バスは走り出した。

『一体、何の休憩だったんだ、、?』
結局、何事が起きたのか分からぬまま、バスはバンガロールに到着し、僕はバスを降りた。

実は、このバスには、僕の友人も乗っていた。
バスはほぼ満席で、空いてる席がほとんどなかったので、僕は最後部席に座った。

一方、その友人は、最前列に座っていた。
その友人は、謎の休憩の一部始終を見ていたので、後で状況を教えてもらった。

その友人によると、実はあの時、バスのサイドミラーがとれたのだそうだ。
元々、走り始めた頃から既に、フラフラとしてて危なかったらしい。

で、そのまま走ってたら、30分くらい走った所で、ポロッととれてしまったらしい。
運転手はあわててバスを停めて、ミラーがとれた所までダッシュして拾いに行った。

そして、一生懸命修理すること15分。
ようやく修理が終わり、バスは出発したのだそうだ。

『何だそんなことか、、。
緊張して損したよ。。』

ちなみに、こんなことはあまり珍しいことではない。
しかもこれは、インドだけの話ではなく、東南アジアを旅してたら、よく起こることだ。

東南アジアを旅してた時に、他の旅人から色々聞いたことがあるが、移動の途中でタイヤを交換したり、ベルトを交換したりと、かなり本格的な修理を始めることもあるのだそうだ。

また、順調に行っても24時間くらい掛かる、かなりハードな長距離バスが故障し、結局30時間以上掛かったという人もいた。
「こんな狭い所に30時間も押し込めて、人権侵害だ!」
と乗客の西洋人が怒鳴っていたらしい。

さらに、何もないようなへんぴな道でバスが故障し、乗客は皆降ろされ、その道を走る次のバスをヒッチハイクするはめになった、という話も聞いたことがある。

まあこんな風に、アジアを旅してると、色んなトラブルに巻き込まれる。
日本人からすると、驚くべきトラブルで、かなり心配になってしまうが、現地の人達は、わりと慣れた感じでトラブルの行く末を見守っている。

思うに、日本人と他のアジアの国では、力を入れる場所が全く違う。

日本人は、トラブルが起こらないようにするために、全力を注ぎ込む。
なので、滅多にトラブルは起こらない。
しかし、もし仮にトラブルが起こってしまったら、その対応能力は低い。
日本の長距離バスの運転手で、途中でベルト交換出来る人は中々いないだろう。

一方、日本以外の国では、トラブルが起きてから全力を出す。
普段の整備、点検等はあまりやっていないので、よくトラブルが起きる。
しかし、仮にトラブルが起こったとしても、なんとかする対応能力を持っている。

この辺りの考え方は、日本と他のアジアの国では、大きく違う。
僕が今まで行ったアジアの国々の中では、ほとんどの国が、どちらかというと後者であった印象がある。

まあ、それがアジアの常識なので、日本のように、計算通りに物事が進んで行くとは、考えない方がいい。
アジアを旅する時は、くれぐれも時間に余裕を持って旅してもらいたい。

怒りが爆発する時って、大体余裕がない時なので。。
旅は余裕を持って。