ムンバイ3日目。
今日は、楽しみにしていた、インドのお祭りの日だ。

お祭りと言っても、外でどんちゃん騒ぎをするようなお祭りではない。
節分やひな祭りのように、各家庭の中で行われるお祭りだ。

この日のお祭りは、ラクシャー•パンダンというお祭りだった。
これは、兄弟と姉妹の関係を祝うヒンドゥー教のお祭りだ。

姉妹は、兄弟の右手首に、ラーキーという紐を結びつける。
そのお返しとして兄弟は、姉妹に贈り物を与え、姉妹を保護することを誓う、というもの。

また、ラーキーを与える相手は、必ずしも血縁の兄弟である必要はなく、ラーキーを結ばれることで、一時的に兄弟とみなされるのだそうだ。

Mさんには、一人息子はいるが、娘はいない。
その代わり、Mさんの妹に一人娘がいた。

なのでこの日は、Mさんの妹夫婦が住む家に出向いて、Mさんの息子と姪っ子で、ラーキーを結ぶ儀式をすることになっていた。
で、僕は幸運にも、それに同行させてもらった。

僕は、ムンバイでMさんに会うことになってから、Mさんに、ムンバイのどこを観光したいか聞かれた。
その時、僕は一応、知っているムンバイの有名な観光地を答えた。

が、それは本心ではないことも付け加えた。
僕が本当に望んでいるのは、インド人が普段食べてる家庭料理を食べることだったり、インド人の普通の生活に入ることだったり、インドのお祭りに参加することだったり、日本語を話すインド人と交流することだったり、そういうことをすることです、と。

で、Mさんは、その要望の全てを叶えてくれた。
今回僕が、ラクシャー•パンダンに参加したのも、そういう経緯からだった。

そんなわけでこの日は、Mさんの家で朝ご飯を食べ、お昼頃、Mさんの妹夫婦家族が住む家にやって来た。

僕とMさんは、2人で先に来ていて、少し遅れて、Mさんの息子もやって来た。
そして早速、ラーキーを結ぶ儀式が始まった。

Mさんの息子は、伝統的な帽子を被り、小さい板の上にアグラを掻くような形で座っている。
そのMさんの息子の頭に、Mさんの姪っ子が、米のようなものを振りまく。
そして、赤い染料を彼の額に塗る。

Mさんの息子は、少し西洋人系の顔をしているが、額に赤いものが付くだけで、ぐっとインド人っぽさが増す。

その後、Mさんの姪っ子が、Mさんの息子の右手にラーキーを結んだ。

『なるほどなるほど。
これがラクシャー•パンダンの儀式か。』
と、鑑賞していると、Mさんが、
「Akiraさん、私の弟になって下さい。」
と言って来た。

そこで僕も、伝統的な帽子を被り、小さい板の上に座り、ラクシャー•パンダンの儀式を受けた。
額に赤い染料を付けられ、インドの伝統的な帽子を被ると、僕もぐっとインド人っぽさが増して見える。

インド人の家庭にお邪魔し、インド人の家庭料理を食べ、親族の絆を深める儀式にも参加させてもらうことで、インド人の家族の一員になれたような気がして、嬉しかった。

『いや~、インドの家族はなんか暖かくて、ほのぼのしてていいな~。』
なんて思った。

ちなみにだが、Mさんの妹さんの家に一緒に住んでいるMさんのお父さん(80歳)は、未だに現役でサンスクリット語を教えているらしい。
Mさんの妹さんの家は、そんなに広いわけではなく、普通の2LKの団地なのだが、その家に30人くらいの生徒が集まり、授業をしているらしい。

「30人もの生徒を集めるの、大変じゃないですか?
広告宣伝とか、どうやってやるんですか?」
と聞いてみたが、宣伝なんて一切やってないらしい。

生徒はほとんど、知り合いだったり、知り合いの知り合いだったり、そのまた親戚だったりと、口コミで勝手に集まって来るらしい。

『いやはや、インドの地縁ネットワークの強さはすごいな。
日本が失ってしまったものを、まだ持っているなあ。』
と感心してしまった。

今日もまた、平和な一日だった。
ムンバイに来て3日目が終ったが、ムンバイに来てからというもの、インド人に対して全然戦闘態勢をとっていない。

こんなことでは、気が緩んでしまいそうだが、インドでもたまには気を緩ませてくれてもいいだろう、、ということで、ムンバイではインド人の優しさに甘えさせてもらおう。
明日はいよいよ、ムンバイ最終日だ。