ムンバイ2日目。
僕は、Mさんの家で朝食をごちそうになった。

朝食を食べ終えると、16歳の男の子と、大学生の女の子が、Mさんの家にやって来た。
彼らは、Mさんの日本語教室の生徒だそうだ。

彼らは早速、日本語で僕に挨拶をして来た。
16歳の男の子の方の日本語は、正直まだまだといったレベルだったが、それでも一生懸命に日本語で会話をしようと接して来てくれた。

『すごいなあ。。
日本で、英会話教室に通ってる高校生が、こんなに外国人に話しかけられるだろうか、、。』

その後、大学生の女の子のお父さんの車に乗って、僕たちはある所に向かった。
車は、中途半端な道の脇に停まった。
どうやらここで、バスが来るのを待つらしい。

僕はこの日は、Mさんの日本語教室の生徒と一緒に、ムンバイの市内観光をするとだけ聞いていたので、てっきり、
『この子ら2人とMさんと僕とで、市バスに乗って街の中心地にでも行くのだろう。』
と思い込んでいた。

バスが到着し、僕はバスに乗り込んだ。
バスには既に、お客さんが12人乗っていた。

そして次の瞬間、僕は彼らに驚かされた。

バスに乗っていたお客さん全員で、
「ようこそ、いらっしゃいませ~。」
と日本語で言って来たのだ。

なんとそれは貸し切りバスで、乗っていた乗客は全員、Mさんの日本語教室の生徒達だったのだ。
ちなみに、Mさんの日本語教室の生徒は全部で17人。
そのうちの14人が、このツアーに参加していた。

しかも皆、わざわざ学校や仕事を休んでまで、参加したのだそうだ。

『なんという歓迎ぶり、、
なんか変に緊張してしまうぞ。。』

彼らは、一生懸命日本語を勉強しているが、日本人の友達はおらず、日本人と喋ること自体初めて、という方ばかりだった。
なので、この日をスゴく楽しみにしていたのだそうだ。

『おお、なんかプレッシャーが掛かるなあ、、
日本人代表として、しっかり彼らと交流せねば。。』

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③ぐ

Mさんの生徒は、主に20代の女性が多かった。
僕は、ムンバイで日本語の勉強をしている、といったら、30~50代くらいのサラリーマン男性が多いのかと思っていたので、ちょっと意外だった。

バスの中で、皆に日本語で自己紹介をしてもらった。
全員、ちゃんと聞き取れる発音で、しっかり自己紹介出来るところがすごい。

彼らのほとんどは、ムンバイの現地語であるマラティー語、インドの公用語であるヒンディー語、準公用語である英語、と3つの言語を使いこなせる。
やはり、それだけ多言語習得の基礎があるから、日本語習得も彼らにとっては難しいことではないのだろう。

バスは、ムンバイの街中にある、貨幣博物館の前に停まった。
最初の見学コースだ。

施設内は、係の人がガイドをしてくれた。
が、僕はほとんどその内容を聞き取れない。

そこで、日本語教室の生徒の中で、一番日本語が上手いアニメオタクの自称20代の男性(どう見ても僕よりも上に見える、、いや、失礼ww)が、通訳をしてくれた。
まあ、たまに意味が分からない部分もあったが、大体は理解出来るように、日本語で説明してくれた。

彼も、日本人とはほぼ喋ったことがなく、アニメを見て日本語を覚えたというのだから、本当に尊敬する。。

貨幣博物館を後にした僕らは、有名なインド門へ向かった。
このインド門から、エレファンタ島という有名な観光地へ、船で行くことが出来る。

が、ここ数日、海が荒れていて、船が出ていないということだったので、僕たちは行かない予定だった。
のだが、幸運にも、今日は船が出せるらしいことが分かった。

僕たちは急遽、エレファンタ島に行くことにした。

インド門から、エレファンタ島までは、船で約1時間。
僕が、
「行きたい!」
と言ったから行くことになったのだが、せいぜい20分くらいで行けるだろうと思っていたので、1時間掛かると聞いた時は、正直少し後悔した。

なんせ僕は、船はあまり得意じゃない。
子供の頃から、乗り物酔いがかなりひどい方だった。

まあ、ここ数年の旅生活で、相当ひどい悪路を、何十時間もバスで走ったりしたので、だいぶ鍛えられては来ていたものの、船はやはりまだ少し不安だった。
が、船の上で、日本語教室の生徒達と楽しく過ごしていると、そんな不安も忘れるくらいに、あっという間に島に着いた。

船の上では、生徒達皆で、インドの歌の合唱を始めたり、僕が『カエルのうた』の輪唱を教えたりと、本当に楽しい時間を過ごすことが出来た。

エレファンタ島の中には遺跡があり、現地のガイドが現地語で説明してくれたが、当然僕は聞き取れない。
ここでもまた、アニメオタクの彼が、僕に日本語で説明し直してくれた。

この日は彼が、これまでの人生で、最も日本語を駆使した日になっただろう。
(本当に良く頑張ってくれた!ありがとうww)

エレファンタ島から、インド門に帰り着いた頃にはもう、18時過ぎになっていた。
本当はもう一カ所くらい回る予定だったが、インド門から皆の家の近くに帰るのにも時間がかかるので、僕たちはバスに乗って帰路につくことにした。

皆と別れた後、僕はMさんと2人で、少し高めの中華料理屋さんで晩ご飯を食べた。
前日の食事代や移動費、この日のツアー代など、僕は1ルピーも出していなかった。

僕が出そうとしても全て、
「お客さんですから。」
と言って、Mさんが出してくれていた。

Mさんは、さらにこの時の食事代まで、払ってくれようとしていたので、
「さすがに全部出してもらっていては悪いので、ここは僕に払わせて下さい。」
と言って、僕が払った。

何度か断られながらも、ここは強硬手段で僕が払ったのだが、ムンバイにいた4日間、この食事代以外、全部Mさんが出してくれた。
本当に何から何まで至れり尽くせりで、Mさんには本当に感謝の気持ちしか出て来ない。

さて、また僕は、ムンバイの一人暮らし?のような団地の一室に帰って来た。
Mさんがわざわざ、こんな旅人が4日間滞在するために用意してくれた、2LKの部屋だ。

一日観光して、汗をかいていたので、僕はすぐにシャワーを浴びようとした。
が、昨日は普通にシャワーを浴びることが出来たのに、今日はどの蛇口をひねっても水が出ない。

シャワー室だけでなくキッチンも。
どんな元栓っぽい所を開けようと、一向に水が出て来る気配がない。

僕は、Mさんに電話を掛けてみた。
するとMさんは、
「そちらの団地の別の棟に、私の学生時代の友達がいるから、その方に電話して、見てもらうように言っておきます。」
と、言った。

そして、5分もしないうちに、チャイムが鳴った。
玄関を開けると、インド人のおじさんと、大学生の娘さんが立っていた。

実はその娘さんも、Mさんの日本語教室の生徒らしい。
この日は、たまたま大学で重要なセミナーがあったとのことで、ツアーには参加していなかったのだが。。

インド人のおじさんは、色々見て回った後で、
「これはこの棟自体の問題だ。
明日の朝まで、この棟は水が出ないよ。」
と言った。

そして、Mさんと電話をした後で、
「よし、今夜はうちのシャワーを使いなさい。」
と言ってくれた。

『こんな見ず知らずの外国人のために、家のシャワーを貸してくれるなんて、本当にいいひとだなあ。。』

しかし、家から歩いて5分の所に、遊びに来た友人に貸せる空き家を持った友人がいて、さらにその空き家のすぐそばに、何かあったら電話一本で助けてくれる別の友人がいる、ってすごいよなあ。
僕はこの日、インド人のご近所ネットワークの強さを実感した。

それにしても、ムンバイに来て以来、いい人にしか出会わないなあ。
僕が今まで見て来たインドとは、別世界のようだ。

ここは本当にインドなのだろうか、、?
いや、僕が今まで見て来たインドの方が仮の姿で、これが本当のインドの姿なのかもしれない。。

なんてことを思いながら、僕は眠りについた。
明日は、楽しみにしていた、インドの祭日だ。