今日の、我がインド英語留学の拠点であるバンガロールは、非常に静かな一日だった。
というのも、街中ストライキで、お店も交通機関もほとんど休みだったからだ。

ストライキの原因は、先日起こった少女レイプ事件。
最近南インドで、6歳の少女が、学校の体育の授業中に、インストラクターからレイプをされる、という事件があったのだ。

インドでは、こういった性犯罪がかなり多い。
そして、
「こういった性犯罪の多さは、インドの社会問題だ!」
と訴える人も多くいる。

インドのスゴい所は、こういった訴えに対して、一般市民が実際に行動を起こすという所だ。
日本にも色んな社会問題はあり、それに対して訴えている人達はたくさんいるが、多くの人達は、我関せずとして、何かしらの行動を起こすことはない。

が、インド人達は実際にストライキを起こして、街の機能を止めてしまうのだ。

僕は昨日、予めこうなることを聞いていたので、まだ混乱することはなかったが、何も知らない旅人達は、結構困っただろうな、と思う。

さて、そんなストライキの街を歩いてみた。
昨日聞いた話では、お店はもちろん、公共交通機関もリキシャも全てストップする、ということだった。

まあでも実際には、わずかではあるが開いている店も、動いているバスもリキシャもあった。
が、スーパーやレストラン等、食料を扱っている店は、全て閉まっていた。

僕にとっては、これが大きな問題だった。

僕の部屋にはキッチンがない。
一応、タイ人の留学生が住んでいる下の階に行けば、キッチンらしきものがあるにはあるが、そもそも僕は調理出来る食料を持ってない。
あるのは、1房のバナナだけだ。

僕は普段、1日1回レストランで外食し、それ以外はバナナを食べて凌いでいる。
が、さすがに丸一日バナナだけで過ごすのは耐えられない。

別にバナナダイエットをしたい気分でもないし、それに最近は運動もしているので、少なくとも1日1食はがっつり食べないと身が持たない。
ということで、開いてるレストランを探しに行ったのだが、全て閉まっていたわけだ。

僕が街を歩いていたのは昼過ぎ。
夜になれば開くだろう、という話もあったので、僕は昼飯を諦めて帰ろうとした。

いつも行っている、行きつけのレストランの前を通り過ぎようとした時、後ろで誰かが呼んでいる声がした。
振り返ってみると、行きつけのレストランの裏口から、その店のウェイターが僕を呼んでいた。

僕は、彼の方に歩いて行った。
裏口から中を見ると、店内は真っ暗だった。
中には、他に従業員が3人くらいいて、何か作業をやっていた。

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⑤ま

僕は彼に、
「今日は開かないの?」
と尋ねた。

すると彼は、
「ああ。」
と答えた。

僕が困ったような表情をしていると、彼が、
「何か食べるか?
麺類なら出来るぞ。」
と言って来た。

そして彼は、真っ暗な客席に僕を案内した。
彼とは、何度も顔を合わせてはいるが、いつも二言三言くらいしか話さないので、まともに喋ったことはなかった。

が、今日は仕事がなくて暇なこともあり、僕の隣に座ってやたらと話して来た。
彼は店内のテレビをつけ、クリケットのチャンネルにした。

僕は彼に、
「クリケットは好き?」
と尋ねると、

「ああ好きだ。
俺はスポーツマンだ。」
と答えた。

僕はさらに、
「カバディは好きなの?」
と尋ねた。

すると彼は、
「ああ、カバディはスタースポーツだ。
スーパースーパーだ。」
と答えた。

まあ正直、スーパースーパーの意味は分からなかったが、何となく熱い思いを抱いているのだろう、ということだけは分かった。

この会話を見てもらえば分かると思うが、僕の英語も、彼の英語もあまりうまくない。
なので、正直言って、まともに会話は成り立っていない。

そんな会話の中、彼は僕に、
「酒は好きか?」
と聞いて来た。

僕は、
「たまに飲むよ。」
と答えた。

すると彼は、
「俺は飲酒運転で捕まった。
罰金は3千ルピー(約5300円)だ。」
と言った。

こういった、街のしがないレストランのウエイターをやっているインド人にとって、3千ルピーは大金だ。
僕が以前行った、インドの理容室のカット料金が、70ルピー(約130円)だったことを考えると分かるだろう。

30分以上掛けてカットして、売上げがわずか70ルピー。
そこから家賃、水道光熱費等の諸経費を引いて、店側の利益を引いて、従業員の給料を支払うとすれば、従業員の給料は一体いくらなんだ、ということになる。

まあそんな世界なので、3千ルピーを稼ごうと思ったら、かなり大変だ。

そんな話をした後で、彼は僕に、
「ワイン飲むか?」
と言って来た。

僕は以前この店で、酒は飲めるか尋ねたことがあった。
が、インドのレストランには基本的に酒は置いていない。

インドでは、酒を飲むことは、あまり好ましいこととは思われていないのだ。
このレストランも当然、酒はないと言われた。

が、今日は店も休みだからオッケーなのか、彼は、裏に隠してあったワインを持って来た。
小さな赤ワインのボトルで、値段は25ルピー(安っ!)と書いてあった。

彼はグラスを持って来て、半分僕に注ぎ、半分は自分で飲み始めた。

彼はさらに、
「チキンケバブはいるか?」
と聞いて来た。

僕はもう結構お腹いっぱいだったので、
「いや、いいよ。」
と言ったのだが、結局裏から他の従業員が作って持って来た。

ワインを食べ、チキンケバブを食べながら彼はまた、飲酒運転で罰金3千ルピーの話をし始めた。

そして僕に、
「ビールも飲むか?」
と聞いて来た。

僕は何度も、
「もういらないよ。」
と断ったが、彼は、
「いいからいいから、俺が持って来てやるよ。」
と言って、半ば強引にビールを取りに行った。

この辺りから僕は少し、彼のことを疑い始めた。

『何度も飲酒運転で罰金食らった話をして来たが、要は今、金がないって言いたいんだな、、?
で、今日は店自体は休みで、売上げはカウントされないから、僕にたくさん飲み食いさせて、料金は自分の懐に入れちゃおうって魂胆だな、、?』

僕はそう思い始めた。
そう思い始めてからは、彼が僕に対して言う、
「マイフレンド。」
という言葉にも、すごく警戒心を抱くようになった。

というのも、インドを旅したことある方は大体分かると思うが、簡単に『マイフレンド』と言って近づいてくる奴は、大体詐欺師かぼったくりと相場が決まっているからだ。

「日本は素晴らしい国だ。
日本人は俺たちのベストフレンドだ。」
と、日本を褒めていい気にさせておいて、ぼったくり店に連れて行かれた記憶が蘇ってくる。

彼は今日、僕を店内に招待してくれた時、こう言った。
「今日はどこの店も休みだ。
まあインド人は家で食べればいいだけだが、お前は外国人だから、きっと家で食べれなくて困ってるだろう。
そう思ったからお前を呼んだんだ。」

僕はその言葉にスゴく感謝した。
が、その言葉すら、今では疑いのフィルターに引っかかってしまう。

まあ、半ば強引に持って来られたものとは言え、飲み食いした分は払おう。
多少ふっかけられたとしても、250ルピー程度だったら許せる金額だ。

もしそれ以上の金額を言って来たら文句を言ってやろう。
僕はそう思い、彼に、
「全部でいくらだ?」
と尋ねた。

すると彼はなんと、
「いいよ、今日は俺のおごりだ。」
と言って来た。

『ええっ?!マジかよ??』
キレる準備をしてて、若干声のトーンを落としてた自分が恥ずかしくなってしまうじゃないか。。

「いいよ、ちゃんと払うよ。」
と何度も言ったが、彼は聞かなかった。

結局彼は、本当に善意で色々やってくれていたのだ。
それを、後半からは全て、疑いのフィルターにかけて聞いてしまっていた。

『ああ、申し訳ない。。
ここの所、他に行きつけの店ができて、その店には週1回くらいしか行かなくなっていたけど、もう出発まで残り少ないが、出来るだけこの店に行こう。』
僕はそう思った。

いや~、でも難しいんだよな~、インドはこの辺りが。
いい奴は、ほんとにいい奴なんだけど、いい奴と思って信用してたら騙されるからな~。
常に疑いのフィルターにかけて、話を聞くようにしないといけないんだけど、それが本当に善意だったと分かった時は、申し訳ない気持ちになってしまう。

特にこれから行く北インドでは、『近づいてくるインド人は全員詐欺師だと思え』ってくらい、油断出来ない所だと聞くし。

よし、常に疑いのフィルターにはかけるが、声のトーンは落とさずに、基本的に紳士的に、フレンドリーに対応するようにしよう。
北インドでのスタンスは、それでいこう。